<strong>「日本酒造りにかける想いに迫る」</strong>
お酒

2023/02/08 Wed

「日本酒造りにかける想いに迫る」

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 今回は、富士酒造様にお邪魔してきました! 出雲市内の中心部に位置している、創業80年超えの老舗の酒蔵です。実は、前回も取材でお邪魔させていただいています。
→(https://saninmanabi.com/liquor/3041/)
 今回は、杜氏である今岡さんに、「日本酒造りにかける想い」を中心に取材してきました!取材時に感じた雰囲気とともに、今岡さんの熱い想いが伝わるように、記事を書きました。是非、最後までご覧ください!

1.富士酒造杜氏 今岡稔晶さんの原点

 今岡さんが杜氏(酒造りの最高責任者)を務める「富士酒造」は、創業者の今岡正一さんが1939年に創業し、「出雲の地で富士山のように愛される日本一の酒が造りたい」という想いをこめて「出雲富士」と命名されました。その想いを受け継ぎ、日本酒造りに励んでおられる今岡さん。そもそも、家業である日本酒造りを継ぐ決意をされたのは、いつだったのでしょうか?今岡さんに質問してみると、今岡さんの苦労と努力を痛いほど感じられるお話を聞くことができました。

写真1 笑顔でインタビューに応じる今岡さん

1)日本酒造りに興味を持ったきっかけ
 小学校1年生から、ずっと野球をしていたという今岡さん。酒蔵を継ぐという気持ちは全くなく、中学生の頃の将来の夢は「プロ野球選手」だったようです。そんな今岡さんが「お酒造りに携わりたい!」と思ったのは、将来のことを漠然と考え始めた中学2~3年生の時でした。親戚の家を訪れた際、実家の日本酒の美味しさを認識できる機会があり、それを機に、家業である日本酒造りに興味を持ち、「中学校を卒業したら、職人の道へ進もう!」、と決意します。

2)杜氏からの一言で、人生が変わる
 しかし、そのことを杜氏に相談した際、「東京農業大学の醸造科学科で、最先端の酒造りを学んできてはどうか」と提案されます。当時、勉強が苦手だったとおっしゃっていた今岡さんですが、「その方が面白そうだ」という直観に従い、東京農業大学への進学を決意されます。

3)大学時代~富士酒造に戻るまでに学ばれたこと
 猛勉強の末、見事、東京農業大学への進学を果たした今岡さんは、念願だった最先端の酒造りを学び、大学を卒業されます。卒業後は、「製造だけでなく、販売の勉強も大事だ!」という想いから、東京都内にある地酒を主に扱っている酒屋に就職されます。それまで、全国チェーンの居酒屋やスーパーに、日本酒を置けることが勝ち組だと思っていた今岡さんにとって、地方のお酒がスポットライトを浴びている場所を見ることができたという経験は、自分たちが日本酒を届ける場所を知ることができたという意味で、とても貴重な経験だったとお話しされていました。

4)杜氏になる
 酒屋で働き始めて1年経った年の4月、突如、出雲のご実家から1本の電話がかかってきます。それは、今岡さんに大学進学を進めた、あの杜氏さんの訃報の連絡でした。社長との相談の末、今岡さんは、その年の10月まで酒屋でのお仕事をされ、実家に帰られました。しかし、この時、焼酎ブームが訪れており、日本酒の需要は壊滅的であったようです。売り上げも落ちる中、今岡さんが戻られた年は杜氏不在で酒造りが行われました。そして次の年、給料が安くても文句を言わずやめないであろうという理由から、今岡さんが24歳という若さで、富士酒造の杜氏を任されることになりました。就任当初は、その若さもあり、苦労も多かったようです。しかし、周りの人に恵まれ、今も杜氏として富士酒造を支えていらっしゃいます。

 今岡さんが杜氏になるまでのお話を聞き、まるでドラマのような紆余曲折のストーリーに、思わず聞きいってしまいました。杜氏は、酒造りの最高責任者であり、高い醸造技術力や判断力、管理能力が求められます。しかし、それと同時に酒蔵で働く蔵人たちをまとめ挙げる必要もあるため、人間性も重要であるはずです。そんな重要な役割を、24歳の頃から勤め上げておられる今岡さんに、杜氏として大切にされている想いを聞いてみました。

2.杜氏として、今岡さんが大切している想い

 今岡さんのお話から見えてきたのは、「社員さんや農家さんといった、日本酒造りに関わってくださる人とのつながりを大切にされている」ということです。

① 社員さんとのつながりを大切に
 「究極の成功は、親子2代、3代とうちに勤めてもらえることです。その裏側には、職場環境、所得などの充実があると思うので、それができたら1つのゴール達成かなと思っています。」

上の今岡さんの言葉にもあるように、今岡さんは「社員と家族がいかに幸せになれるか」ということを考え、職場の環境づくりに取り組まれています。例えば、富士酒造では、日本酒造りのための泊まり込みという制度をなくし、週に1回、また、正月に1週間の休みが設けられています。かつては日本酒の仕込み期間になると、酒蔵に泊まり込みで麹の温度を確認し、一定の温度に達したら麹を広げる作業をしていました。しかし、富士酒造では、携帯電話やパソコンで麹の温度を確認できるようにしたことで、酒蔵に泊まり込むという制度をなくしたようです。今では、社員さんたちは、酒蔵の近くに住み、麹が一定の温度に達したら酒蔵に来て作業をされています。こういった制度が生まれた背景には、「家族との時間を大切に過ごしてほしい」という今岡さんからの想いがあります。そんな今岡さんが杜氏を務める富士酒造は、私が取材に訪れた際、皆さんもちろん熱心に作業されていましたが、私の様子に気が付くとすぐに明るい挨拶をしてくださるような、とても雰囲気の良い酒蔵でした。

写真2 熱心に作業されている蔵人の皆さん(酒蔵では、午前8時から作業が始まります。出勤時間は、なんと午前5時30分です!)

② 農家さんとのつながりを大切に
 今岡さんが杜氏になられて、一番初めに取り組まれたのは、出雲市内の酒米農家探しでした。「まずは安心して飲めるお酒を造りたい」「出雲市内の信用できる農家さんに酒米造りをお願いしたい」、という今岡さんの強い想いから生まれた行動でした。そこで、出雲市南部の山間地にある野尻営農組合とご縁があり、最初は2軒の農家さんと、農薬や化学肥料を極力抑えたエコ農法で、島根の酒米・佐香錦を栽培されました。そして、その後、年々参加してくださる農家さんが増え、2018年には出雲富士の酒米専門の農業法人になったそうです。兵庫県へ先進地視察に行ったり、農業試験場の先生に圃場視察に来ていただいたり等、農家さんと一緒に「持続可能な酒米造り」に取り組まれています。(HP参考)また、「持続可能」であるためには、農家さんにも安定した収入が必要です。そのため、今岡さんは「酒米造りに使う1次産業品は値切らない」という方針を定め、米の他にもゆずや芋など、日本酒造りに必要な1次産品は提示された値段で買うようにしているそうです。

写真3 酒米造りを担っている農家の皆さん

「酒米、環境、蔵等、全てバトンだと思っていて、良い状態で次へ渡さなければならないと思っています。」「自分のものは何1つないですし、自分1人では何もできません。」

 これらの言葉に、酒造りに関わる人とのつながりを大切にされている今岡さんの全てが、詰まっているような気がします。今があることに感謝しつつ、次の世代の事を考えて、自分にできることを謙虚に行っていらっしゃることがひしひしと伝わり、今岡さんの杜氏としての意識の高さを感じさせられました。

3.若い世代に伝えたいこと

今回のインタビューで、今岡さんが最も熱く語ってくださったことは、「若者にもっと日本酒を知ってほしい」という想いです。「若い人に日本酒のことを知ってもらうためには、どうしたらよいのか」、インタビュー中、今岡さんは何度もそう口にしておられました。
 そんな今岡さんが語ってくださった、若い世代に伝えたい日本酒の良さは、2つあります。1つ目は、米に一番付加価値をつけられるものであることです。日本の象徴とも言っても過言ではない米に付加価値を付けられるものとして、日本酒に勝るものはない、と今岡さんはおっしゃっていました。2つ目は、人と人とをつなぐものであるということです。「お酒を注ぎ合う時って、互いに必ず1言、2言かわしますよね。お酒を注ぎ合うという行為によって、自分が相手に興味があると示すことができるんです。」、と今岡さんはお話されていました。

「今すぐに、日本酒が飲めなくてもいい。ただ、若いうちにその良さを知ってもらいたい。そして、いつか日本酒を美味しいと感じられるようになった時、日本酒の良さを思い出してほしい。」
出雲地方が日本酒発祥の地である可能性が高いことに、誇りを持って欲しい。」

 そう力説する今岡さんの表情からは、日本酒造りに携わっていることに対する誇りを感じました。実は、富士酒造様に伺う前は、日本酒を飲んだことのなかった私ですが、お話を聞き、今まで興味を持つことのなかった日本酒に興味を持てるようになりました。そもそもお酒が苦手ということもありますが、いつか飲めるようになったら、父や母と杯を交わしてみたいな、と、今回のインタビューを通して、感じました。

富士酒造の皆様、貴重なお時間を割いて取材にご協力いただき、ありがとうございました。

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取材先

取材先画像

富士酒造合資会社

島根県出雲市今市町1403
0853-21-1510
定休日:土・日・祝
営業時間:8:30~17:30
出雲富士│富士酒造(https://izumofuji.com/)

取材場所:〒693-0001 島根県出雲市今市町1403

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