皆さんは「小泉八雲」という人物をご存じでしょうか?
その名を知らずとも、「雪女」や「耳なし芳一」なら知っているのではないでしょうか。
小泉八雲は、そんな我々日本人になじみ深い『怪談』を残した人物です。
また、『知られぬ日本の面影』という著作物を通して、松江・出雲を中心とした山陰の魅力を世界中に広めた人物でもあります。
山陰が誇る偉人というべき功績を残した彼ですが、そんな彼のことを“知らない”という人も案外多いのではないでしょうか。
実をいうと、筆者も大学に入るまではその名前すら知りませんでした(^^;)
今回は松江市にある小泉八雲記念館さん協力のもと、知られざる彼の魅力をお伝えします。
目次
小泉八雲とは
山陰が誇る偉人として紹介した小泉八雲ですが、実は日本人ではありません。
生まれはギリシャで、出生名はパトリック・ラフカディオ・ハーンといいます。
松江の英語教師として赴任してきた彼は、日本人の小泉セツと結婚。
日本国籍を取得した後は「小泉八雲」と名乗るようになりました。
小泉八雲が愛した歴史と文化の薫るまち 水の都・松江
八雲の代表作の1つに『知られぬ日本の面影』があります。
出雲・松江でのエピソードを中心に描かれており、その魅力を世界に広めた作品です。
八雲の記念すべき来日第1作であり、旅行記という文学ジャンルの頂点と名高い作品です。五感を駆使して観察し、文学的手法で鮮やかに表現しています。
八雲ならではの「読ませる」工夫が随所にみられるため、旅行記とは言ったものの読み物としても非常に面白いです。
その影響力は、松江市が9都市しかない国際文化観光都市の1つ認定されていることからも分かります。
松江市は“小泉八雲が愛した歴史と文化の薫るまち 水の都・松江”として、
国際文化観光都市に指定されています。
国際文化観光都市という言葉は耳なじみがないかもしれませんが、
簡単に説明すると松江市が日本の国民生活、文化及び国際親善に果たす役割が大きい都市として認められているということです。
京都や奈良と並んで、その歴史や文化の尊さが認められているというのはとても誇らしいことですね。
ここで注目してもらいたいのは、
“小泉八雲が愛した歴史と文化の薫るまち 水の都・松江”
という文言です。
バッチリ「小泉八雲」の名前が入っていますね。
9つある指定都市の中で、こんなにがっつり人名が入っているのは松江ぐらいです(笑)
そう、松江市は
「ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の文筆を通して世界的に著名である」
(昭和二十六年法律第七号 松江国際文化観光都市建設法より引用)
として国際文化観光都市に指定されたのです。
八雲はその文才をもってして松江・出雲、山陰の魅力を世界中に広めたわけです。
魅力いっぱいのミュージアム
小泉八雲の魅力を語るうえで外せない場所があります。
それがここ、小泉八雲記念館です。
この記念館は八雲と妻のセツが新婚生活を送った小泉八雲旧居に隣接されています。
そして驚くべきことに、
なんとこの記念館の館長である小泉凡さんは、小泉八雲のひ孫さんなんです!
筆者も何度かお会いしたことがありますが、
お話がとても面白くて、時間があっという間に過ぎちゃうような素敵なお方です。
子孫だからこその裏話もたくさん聞けちゃいます。
小泉凡さんが館長に就任したのは、2016年ですが、
その年に小泉記念館は大幅にリニューアルされました。
展示構成を拡充・一新し、ライブラリーやホール、ミュージアムショップまで備えられました。
ここでは、第1展示室・第2展示室に分けて紹介していきます。
【第1展示室】
第1展示室では「その眼が見たもの」「その耳が聞いたもの」「その心に響いたもの」というコンセプトのもとに生涯を編年で紹介しています。
左からぐるーとまわっていくと、八雲の生涯をなぞることができるような構成になっています。
両親の離婚、左目の失明、…と八雲は実に波乱万丈な人生を送ってきました。
日本に来てからも、来日外国人としての苦労があったそうです。
そんな彼が「何を見て」「何を聞いて」「何を思ったのか」
八雲の感性を通して、私たちにも新たに発見できるものがあるかもしれません。
第一次展示室で筆者が特に惹かれたのは、こちらの鉄アレイです。
周りには八雲が使っていたルーペだとか、キセルとかがあるなか、
突如現れた鈍器には思わず脳をぶん殴られました(笑)
この鉄アレイも、八雲が実際に使っていたものだそうです。
なんでも八雲が生まれたギリシャではマッチョ信仰(?)みたいなものがあるそうです。
館長の小泉凡さんによると、
ギリシャの町にはシャツをはだけさせて、自慢の筋肉を披露しながら街を堂々と練り歩くナイスガイがみられるのだとか。
小泉八雲がマッチョを目指していたのかは定かではありませんが、
鉄アレイで一生懸命筋トレをする八雲を想像すると、愛らしさすら感じます。
………ギャップ萌え、というやつでしょうか…?
【第2展示室】
第1展示室からさらに奥に進むと、第2展示室があります。
「再話」「いのち」「八雲から広がる世界」などがキーワードで、
八雲の事績や思考の特色をいろんな切り口から描き出してくれています。
「再話」コーナーでは松江出身の佐野史郎さんによる、八雲が再話した山陰地方の5つの怪談の朗読を楽しめるみたいですよ。
ちょっと寄ってみましょうか。
なかにはいると黒く塗られた壁が広がっていて、雰囲気があります。
見渡すと、『怪談』にまつわるいろんな絵が描いてあってすごく面白いのですが、
横を見るときはお気を付け下さい。
こちらを見つめてくるコワモテな隣人がいて、ちょっとビビります。
さて、コワモテな隣人さんと一緒に『怪談』の朗読を聞いてみましょう。
佐野史郎さんの低く落ち着きのある声が『怪談』とすごくマッチしています。
ゆっくりと心を撫でるように語り掛ける少しかすれた声音が、『怪談』の世界を妖しく紡ぎだしてくれます。
冒頭でお話したように、小泉八雲は『怪談』の作者として有名です。
雪女、耳なし芳一、ろくろ首、我々日本人にとってなじみ深い怖い話も彼によって広まったといっても過言ではないでしょう。
『怪談』と聞くと怖いイメージがどうしてもあると思いますが、
実は心があたたまる素敵な裏話があったりします。
『怪談』は、各地に伝わる伝説・幽霊話がもとになっており、それを八雲が物語として“再話”したことによって生まれました。
その伝説や幽霊話を語り部として八雲に聞かせてくれたのが、妻のセツだったのです。
外国人である八雲は日本語がわからなかったし、日本人である妻のセツもまた英語が分からなったそうですが、
「ヘルンさん言葉」とよばれる特殊なカナ言葉で意思疎通をしていたそうです。
言語の壁を越えて夫婦の間をつなぐ特別な言葉というのは、なんだかとってもロマンティックですね。
巧みな語り口でありながら、簡潔で分かりやすい文章で描かれた『怪談』には、
八雲独特の美意識がその細部に見られます。
あくまで普通の登場人物の行動を通して、人情、智恵、道徳などのテーマを
異界と深く結びつけて描かれている『怪談』は八雲の最高傑作とされています。
小泉八雲記念館を訪れた際には、ぜひ再話コーナーに足を運んでみてください。
彼の傑作を存分に味わうことができます!
<お気に入りの展示物>
ここでは、筆者が小泉八雲記念館で一番好きな展示物を紹介します。
☆狐火の行燈
『妖魔詩話』という作品を基に作られた展示品です。
キツネ好きな筆者にはたまりません。
狐の裏側にはろくろ首がいます。
「66ビ」で「ろく・ろく・び」って (笑)
小泉八雲って意外とお茶目な人だったのかもしれませんね。
八雲のおくりもの
『知られぬ日本の面影』、『怪談』など、
八雲は、その筆を通して私たち日本人がいつの間にか気に留めなくなってしまったことを思い出させてくれます。
たしかに、日本に根付いている文化は、自分たちにとっては
当たり前すぎて、改めて振り返る機会もなくなってしまっているように思います。
八雲は世界に日本を伝えた人ではありますが、
同時に現代を生きる私たちに、日本を思い出させてくれる人でもあるのです。
外国人である彼が、ここまで日本を描ききることができたのには、彼の異文化に対するリスペクトがあったからこそだと筆者は思います。
異文化に対する広い心で、それをありのままに受け入れる彼の精神は、
グローバル化が進む現代においても非常に重要なことです。
彼のこの精神性は後に「オープンマインド」と呼ばれるようになりました。
小泉八雲の生きていた頃は、現代よりもずっと異文化への偏見が強かったでしょう。
国際結婚が「雑婚」と呼ばれてしまっていたような時代です。
そのような時代に「オープンマインド」を貫いてみせた小泉八雲だからこそ、
彼の死後100年以上たった今でも世界中の人に届くものがあるのだと思います。
ギリシャと日本の友好110周年の節目にあたり「ハーンのオープンマインド」をテーマにした展示会が開かれた。
アテネを始まりとしたこの展示会は、その後、松江、ニューヨーク、ニューオリンズでも開催され、大盛況となる。
写真は、松江で開催された展示会の作品の1つ。
オリーブの木から羽根が生えて、自由に羽ばたく様子を表した抽象作品であり、八雲の偏見のない開かれた心を表している。
小泉八雲の、広大な海のように広い精神性は
国境を越えて、時空を超えて、現代に生きる私たちに大切なことを教えてくれます。
偉人を伝えていく
私たちに大切な贈り物を残してくれた八雲のことを、後世に伝えていくというのは素敵なことではないかと筆者は思います。
筆者が大学1年生の時、「小泉八雲の文化的価値を見出し、地域活性に繋げていく」
というテーマでプロジェクトを立ちあげました。
その際にも、小泉八雲記念館の皆様には本当にお世話になりました。
そのプロジェクトでは、“小泉八雲自身”と“小泉八雲と関わりの深い島根”の魅力を詰め込んだカレンダーをつくりました。
「小泉八雲」についてほとんど知らなかった大学生たち16人が集まって、
一生懸命「小泉八雲」を伝えようとしたのです。
今思うと、本当に無茶なことをしたなと思います。
だって発起人である筆者自身が、もともと小泉八雲の名前すら知らなかったのですから。
しかし、結論から言うとこのプロジェクトは無事成功しました。
小泉八雲記念館さんのご助力があったからこそです。
小泉八雲について知らない我々に、彼の「面白さ」を教えてくださったり、
カレンダーに必要な画像をご提供くださったり、文章の添削までしていただきました。
至れり尽くせりで、本当に感謝の気持ちしかありません。
これがそのプロジェクトで作ったカレンダーです!
「今でもうちにちゃんと置いてあるんですよ~。」
と言って笑顔でご案内くださったときは、嬉しすぎて思わず声が出ました。
小泉八雲記念館さんのおかげで実ったこのプロジェクトは、
今でも少しずつ歩みを進めています。
小泉八雲の「面白さ」を伝えるために、小学校に出前授業に行ったりもしました。
大学生ながら授業するというのはちょっと緊張しましたが、
子どもたちがすごく楽しそうに授業に参加してくれたので緊張はすぐに吹き飛びました。
そして同時に、子供たちにとっても小泉八雲って面白いのだなと気づけました。
小泉八雲記念館さんに、小学校での授業のことをお話していると、
とっても素敵なあるものをみせていただきました。
こちらは、小泉八雲記念館さんに保存してあるお礼のお手紙の数々です。
八雲のことを伝え続けてきた小泉八雲記念館さんへの
「ありがとう」であふれています。
筆者も、小泉八雲記念館さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
その感謝の気持ちを忘れないためにも、これからも八雲のことを伝えていく活動を続けていけたらなと思います。
まとめ
小泉八雲記念館さんは、若い子たちが小泉八雲に興味を持ってくれるのは本当に嬉しいことだとお話してくださいました。
そして同時に、筆者たちの活動を応援してくださいました。
これからも小泉八雲の魅力を発信できるような活動をしていきたいなと思います。
八雲のこと、知らなかったという人も多いかもしれませんが、
この記事を通して少しでも彼のことを「面白い」と思って頂けたら嬉しいです。
大変長くなってしまいましたが、
最後までお読みくださり本当に、本当にありがとうございました。
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取材先
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小泉八雲記念館
・住所:〒690-0872 島根県松江市奥谷町322
・電話番号:0852-21-2147
・定休日:年中無休
・営業時間:
4月~9月 8:30 ~ 18:30(受付終了 18:10)
10月~3月 8:30 ~ 17:00(受付終了 16:40)
・HPのURL:小泉八雲記念館 | Lafcadio Hearn Memorial Museum (hearn-museum-matsue.jp)